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ふるさとの春

新学期を迎えるころになると、いつも思い出すことがある。
自分が生まれた旭川市郊外の江丹別の「かた雪」の頃の光景だ。

江丹別は、旭川を含む上川盆地のそのまた盆地の町で、石狩川にそそぐ一本の川に沿って民家がポツンポツンと点在し、年間を通じて風がほとんどなく、典型的な盆地気候の町だ。自然条件は北海道の中でも特に厳しく、冬は豪雪に加えて、気温もマイナス30℃以下にもなり、夏は夏で風が吹かないためか、猛暑で30℃以上にもなる。
ところが自然は厳しさ以上に歓びももたらす。春を迎えるこの時期になると、寒気が緩み、冬の間に積もっていた根雪を溶かし始める。通学の時に道路の脇に積もっていた雪が、陽の光を浴びてしずくを垂れ氷のようになった雪が、カサコソと音を立てるように溶け落ちるのを見るのが大好きだった。田舎ならではのきれいな雪が水を含み光に照らされ解けていくさまを見る時、身体じゅうに春の息吹を感じるのだった。

また、晴天の日は、一面の雪野原でも、同じように陽に照らされた雪の表面が溶ける。昼間解けた雪は、夜、放射冷却によって凍り、これが「かた雪」となる。
子供たちにとってかた雪は天からの恵みだった。だから、この時期、晴れた日は早起きをする。兄弟、友達に声を掛け合いながら、表に飛び出す。雪の上はどこを歩いても抜からない。小高い丘に登って、お尻にビニールを敷き一気に滑り下りたり、雪の上での鬼ごっこをしたりとへとへとになるまで遊んだものだ。

先々週、喉の調子が悪くて旭川の病院に入院した母を見舞った。
とても良い天気で、病院の窓から快晴の空が見えていた。「今どきの子供達も、かた雪で遊んでいるのかな」と聞くと、「かた雪の時期かい」と懐かしげに外を見て、「いい天気だなー、寝ているのが勿体ない」と言った。母には、質問の意味は通じなかったが、母が元気だった当時のかた雪を思い出したようだった。僅かの見舞いの時間だったが、かた雪の時期を共感できたのは嬉しかった。
しかし、母は「いい天気だなー、寝ているのが勿体ない」と同じことを5回も言った。
少し不安になった。
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[C1] ふるさとの春に思う

わたしの母は、昔を懐かしみ深夜に徘徊してしまいますが、それを止めることが良いのかと考えるようになりました。いっしょに深夜に歩いてあげると昔話を懐かしく笑顔で語ってくれます。

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